Photo by Musa @ Turkey

Jan 28, 2011

エジプト情勢(大きな混乱の兆し)

エジプトの過激化するデモに関しては日本でも報道がされているようですね。
正直、当初は楽観的な見通しを持っていたのですが、どうやら民衆の勢いが結構すごい。
想像以上。

エジプトで何らかの“革命”的なことが起これば、それによる混乱はチュニジアの比ではないということ。
中東和平やアメリカの中東政策にも大きく影響するのではないでしょうか。

ざっと何が起きているか説明。
祝日だった25日、チュニジアのジャスミン革命に呼応するかたちで、1977年以来最大の反政府デモが起きました。
あくまでこのデモは届け出がなされた合法的なものだった。
しかし、この日のデモがあまりに広がったためか内務省は翌日以降一切のデモを禁止しました。

自分はここに至っても「臆病なエジプト人は禁止されたらデモやめちゃうんでしょ」と思っていたが、結果的にデモは続いた。
この時点でのデモは非合法活動。治安当局側も神経を尖らせているので、カイロやスエズという街をはじめとして、全国的にデモ隊と治安部隊との衝突が続いた。

そして28日金曜日(エジプトは休日)、さらに大きなデモが計画されている。

ざっと流れを追うとこういうことですが、実際のところは情報が錯綜していて何がなんだかよくわからない。FacebookやTwitterも制限されているようで繋がらないことが多いし。
なんか蚊帳の外(この場合「蚊帳の中」かな?)にいた「ムスリム同胞団」も28日のデモには参加表明をしたとの情報もあり、無いと思っていた反政府勢力の団結も見られる。

さらに混乱させるだけかもしれませんが、自分もここでヒュミント情報や報道やらで気になったものまとめてみます。

たまに()の中に書かれている謎のカタカナは、その単語のアラビア語のカタカナ読みです。

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【現在の国内情勢について】
・スエズは“戦争状態”(先方発言ママ)にある。1人の将兵が感情の安定(イッティザーヌ)を失い、銃乱射により市民3人を殺害した。これに怒った市民が一斉にデモになだれ込んだのがきっかけ。

・死者はどれだけ少なくても30人は出ている、というのは人づてに聞いた内務省関係者の話(注;報道では死者は4人程度とされている)。

・軍がスエズに入ったとの情報もある。

・カイロ市内のデモ鎮圧に際しても実弾が使われた。実際に銃弾を足に受けて病院にいる人もいる。

・噂されていた、ガマール・ムバーラクとその家族及びスーザン・ムバーラク(大統領夫人)のロンドンへの脱出については確実っぽい。カイロ南の空軍基地からロンドンに脱出した。現在は駐英エジプト大使の庇護下にある。ムバーラク大統領本人は、シナイ半島(おそらくターバ。イスラエル国境近く)にいるとみられる。

・一般のエジプト人(アーディユーナ、シャービユーナ)は、今のところデモには参加しておらず、一昨日からのデモはエリート層(ナフバ(複;ヌハブ))によるものである。しかし、過去のデモと異なるのは、職種やイデオロギーの括り無しに、多数のエリートグループが参加したことである。

・今回のデモを指揮した人物というのはいない。あえて言うならばFACEBOOK(以下FB)である。エジプトにおけるFBは、エリート層にとって全てのメディアの代わりになった。エジプト人は(日本人の閉鎖的な使い方とは異なり)知らない人であっても構わず友人リストに加える。FBが革命を起こす、とまでは言わないが、少なくともデモの継続に大きな助けとなっている。

・電子戦争(発言ママ)の側面も見せつつある。大手通信会社モビニールのオペレーションルームは治安当局の管理下にある。他方で、ハッカーが国民民主党のHPをハックしようと試みているようである。

・デモで叫ばれるスローガンは25日の一日のうちに大きく変わった。当初(午前中〜昼過ぎ)は物価高騰に怒るスローガン(1977年の大規模デモの際に使われたスローガンをそのまま現代に置き換えたもの)だったが、夕方以降「ムバーラクを追い出せ」に変わった。物価高騰に関するスローガンは今となっては誰も使っていない。

・昨日は新聞社にもデモ隊が詰めかけた。


【今後のシナリオ】
・今回の一連のデモで、少なくともガマール氏が大統領になる可能性はゼロになった。

・万が一ムバーラク大統領が政権を放棄する場合、暫定的ではあれ国のトップに座る人物は、ムハンマド・エルバラダイ氏(元外交官、国際原子力機関(IAEA)前事務総長、ノーベル平和賞受賞者)の可能性が最も高い。それは以下の理由による。(1)米国、欧州をはじめ、世界中が認識している政治的存在であること、(2)国内のどの政党、運動、非合法組織にも属していないこと、(3)既に70歳近くで、年齢的に長期政権を敷く可能性が低い、などである。

・貧民層がデモに参加しようとカイロに詰めかけた場合、街はカオス(ファウダー)になる。彼らは本当に飢えている。ゴミを食べて生活しているような最貧層がやって来た場合、スーパーや商店への略奪が起こるかもしれない。もっとも、明日のデモをはじめ、近い将来の貧困層の参加は無いと思われるが、もしこの流れが長期化する場合はこの限りでない。

【軍の立場】
・未だに軍の立場が明確ではない。1977年のデモでは軍が出動しデモ隊を鎮圧し、サダート大統領を守ったが、今回は軍がガマール氏が大統領職に就くことをを嫌っていることからか、必ずしも積極的にムバラク側を守ろうとはしていないようである。むろん、民衆の側につけばクーデターになってしまうので、そこまでのことは意図していないと思われる。


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とりあえず以上。

或る人が、エルバラダイ氏が暫定的にでも国のトップにあるというのを説明するとき、サッカーを例に出していたのが面白かった。

エジプトではアハリーとザマーレクというサッカーチームの試合が、日本プロ野球でいうとこの巨人阪神みたいなもんで、すごく盛り上がる。盛り上がり方は巨人阪神戦の比ではない。

で、この2チームの試合に関しては、審判が外国人なのだそうです(エジプト人の99%がこの2チームのどちらかのファンと言われているので、エジプト人審判だと中立性が損なわれるから、らしい)。

エルバラダイはムバーラク後のエジプトにおいて、「外国人審判」のような存在になりえる、とのことでした。

まずは、明28日の大規模デモの動向を注視せねばなりません。

(了)

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